高橋みどり『うちの器』レビュー マンションでのうつわの楽しみ方

料理好きのうつわと片づけ」でも取り上げられていた高橋みどりさんが2003年に出した本。自身の生活で使われているうつわについて書かれています。1957年生まれの著者ですが、それから12年後に出された「わたしの器 あなたの器」と比べると若さを感じる内容・装丁です。

206ページのうち、見開きで写真がないのは9箇所だけ。そのうちショップリストが2箇所なので、はじめから終わりまで105回ページを繰る中で、98回は必ず器の写真が目に入ってきます。

お茶を楽しむうつわ

そんな写真の1つ。

この写真を見ると、ああ器が好きなのだな、と感じることができます。何度も使われたのが分かる色の付き具合。 この鉄粉が出たこの高さの白化粧のカップに、お茶を入れるのが楽しみでしょうがないのでしょう。この本全体から感じる高橋さん(当時)のセンスが このお茶とツチモノの組み合わせにも表れていると感じます。

そしてこの本には明るい日光に包まれている器の写真が多く、それが全体のトーンになっているだけでなく、うつわを使う 高橋さんのウキウキさを表しているようです。

彼女の日常にあるうつわ

文章よりも写真が多いエッセイは1話完結タイプのマンガを読んでいるようです。そこには日常の風景が登場します。

うつわが食卓や食器棚や台所にある風景は他の本でも当然あるものですが、「うちの器」のおもしろいのは、そこに飾り気がないところです。鉄瓶の写真は置き方が工夫されて構図も選ばれているとはいえ、撮影用ではない、いわゆる生活感を感じる写真です。

こうした日常の一コマのような写真にこそ、うつわへの愛情を一番感じます。高橋さんだけでなく、本の編集者、カメラマンもうつわが相当好きな人でないと出来ない本だと思います。

お茶を飲む生活を楽しんでいるのがわかります

高橋さんの生活にはお茶が欠かせません。そのことは「料理好きのうつわと片づけ」も読むとより分かります。

その欠かせなさは、このお茶セットの完成度が物語っています。

急須・湯冷まし・湯呑・布巾。これらの道具を1つの盆の上に揃え、そしてそこでお茶を入れるのがこんなにも美しいものだという驚きを与えてくれる見開きです。

鉄瓶を炭を熾した手焙りで使う、というのも今どきの情報誌を読んでいては思いつかない楽しみ方です。スローライフという言葉が流行りましたが、スローよりもこのような使って楽しい、やって楽しい、そんな楽しい手間が大切なのではないでしょうか。

漆の普段使いも参考に

ちょっと意外だったり、手間を楽しむ、ということでいえば、高橋さんの漆器の使い方もとても参考になります。

漆器というと、馴染みのない人には「神経を使いそう」「手入れが難しそう」というイメージがあり、慣れている人には「質実剛健」「割れなくて焼物より使いやすい」「熱が手に伝わりにくい」といった機能的な長所が好かれると思いますが、この写真はお粥との抜群の相性のよさをあらためて気づかさせてくれます。それと同時に、端ぞりの少しフォーマルな雰囲気のものでも日常の中で気兼ねなく使える、むしろその形の美しさがより映えるのが日常の食卓なのだと伝えてくれます。

この弁当箱からも、食材の色の組み合わせも含めて楽しさを演出する、そのこと自体を楽しんでいることが感じられて、高価な漆塗の弁当箱でも手に入れる十分な価値を読み手にインプットしてくれます。

お茶のようにうつわを楽しむこと

冒頭にも書いたように高橋さんは「わたしの器 あなたの器」という本を12年後に書いています。その本を知っていると、本書「うちの器」の冒頭に書かれた言葉がまだ若いと感じますし、三つ組椀には収斂しなかったのだなあ、とも思ったり。

だからといって「うちの器」が浅いというわけではなく(とはいえ、高橋さんの場合は後年の方が深みがあると思います)、21世紀の初めの時代 ー生活の中に量産品でも洋食器でもないうつわを使う人の裾野が広くなった時代ー の、高橋さんの生活の楽しみ方がつまっています。

それぞれの写真がお茶請けをボリボリ食べるように次々と楽しめ、健やかさ溢れる文章はゆったりとした雰囲気。まるでお茶の時間のようです。