「料理好きのうつわと片づけ」レビュー<1>

うつわの本、と聞いて思い浮かべる本はありますか?

Casa Brutus、nice things、anan、ku:nel、家庭画報やクロワッサン、サライ・・・そんな情報誌で読むくらいかな、という方も多いと思います。炎芸術や目の眼などもありますが、そういった専門誌を読む、ましてや単行本を持っているというのはおそらく少ないのではないでしょうか。

うつわにフォーカスした本というのは古くからありますが、明治になると財界人の蒐集により関心が高まったことと出版技術進展のためか、急に数が増えます。その流れの中でも、普段使いのうつわ、というのを取り上げる本が一般的になったのは90年代半ばから。それからの四半世紀に出された単行本は、陶説のような毎月出るような専門誌や、美術展などで刊行される大型本を除けば、200冊ほどでしょう。

25年で数百冊というと少ないかもしれませんが、かといってその中から選べと言われた時にどれを読むか見極めるには多い数です。しかも服飾業界ほど変化はないといえ、美術と同じくらいには時代による変化もあるので、必然的に最新の情報誌にのっている新しい情報を読むことが多くなります。

しかし雑誌でもムック本でもない単行本は、著者の入れ込みようを感じられて面白く、それでいて器の楽しみ方を上手に伝えてくれる本もあります。うつわHOUSEでは実際に手に取ってうつわの良さを感じられる場でありたいですが、興味をうつわに持ってもらったり、せっかくのうつわをもっと楽しんでもらうために良書もお伝えできればとも思っています 。

うつわの楽しみ方と付き合い方を教えてくれる本

今回取り上げるのは「料理好きのうつわと片づけ」。

河出書房新社 2016年9月 人とうつわ編集部

著者はうつわの魅力を専門としたライターの方です。
書名からすると、料理と片づけ方にフォーカスした本と思わせますが、実はそれは一部で、初心者にも相当の器好きの人にも、うつわの楽しみ方を教えてくれる本です。

基本の内容は、料理家など8人のうつわの使い方を紹介したものとなっています。

たかはしよしこ(料理家・S/S/A/Wオーナー)
http://s-s-a-w.com/
山本千織(ケータリング弁当料理人)
https://www.instagram.com/chiobenfc/
大倉千枝子(おむすび研究家・おむすびまるさんかくオーナー)
http://omusubi-garden.com/
青山有紀(料理家・青家店主)
https://aoya-nakameguro.com/blog/
高橋みどり(フードスタイリスト)
安藤明子・雅信夫妻
柳田栄萬(薬膳料理家・千鳥店主)
https://www.chidori.info/about.htm
恵藤文(夏椿店主)
http://natsutsubaki.com/

料理のレシピやそれをお気に入りのうつわに盛った写真、収納の仕方、足を運ぶ店、など。ちゃんと読めばたっぷりと濃い様々な情報が載っています。

そして、それぞれのうつわへの思い入れが文章から感じられるのですが、そこにはそれぞれの人の生まれた環境や歩んだ人生も滲んでいて、されどうつわと思わされます。

8人各人を象徴するような異なる種類のうつわ(漆、焼締、ガラスなどなど)についての洗い方も丁寧に紹介していて、いい構成だなぁと思います。
その洗い方も要約文があって記憶しやすくしてあったり、悩みQ&Aでは誰の回答を取り上げるかがしっかり選ばれている(泣く泣く削った回答もあることでしょう)など編集と表現したいことがぴったりで冴えています。

情報としてもエッセイ的な読み物としても良いコンテンツになっていて、今の日本における普段の生活で手仕事のうつわを使う人たちにおすすめのうつわ本です。

うつわ好きにとっては、まず、 一番の悩みともいえる収納について実例知見が得られます。

そして、名前を見たことのある業界の有名人がそれぞれの人のとっておき、一番思い入れのあるうつわにとって教えてくれるというのはなかなか貴重です。どのようにうつわを楽しんでいるか、自分とは違う好みでもどんな風に使っているのか、自分が好きな程にここに出ている人たちが楽しんでいるかを感じることができると思います。

初心者にとってはうつわの扱い方について、そんなに怖れることはないと諭しつつ、そういう楽しみ方があるのかということ(たとえば高橋みどりさんはお茶を飲む時間の楽しみ方)を気づかせてくれるでしょう。ちなみに、自転車に乗れるようになる前は恐くても慣れれば転ばなくなるように、そしてたまにアクシデントがあってもなんとかなるように、うつわを日々使っているとそうそうのことでは割らなくなりますよ。

各料理家のレシピは半ページも使わないで説明できる程度。なにも特別な料理でなくても、そんな手軽なもので楽しめるのが普段使いのうつわというメッセージもこめられていると思います。

各料理家に共通の構成をまとめると、

  • メインはカラーページのストーリー
    思い入れのあるうつわや、よく使ううつわが写真と文章で紹介されている
  • 料理
    料理が盛られたうつわの写真と、その料理のレシピ
  • うつわの取り扱い方
    片づけかた、マイルール、洗い方
  • 片づけ道具
    各人がうつわを洗う時に使っている洗剤・布巾・水切りかごの紹介

最後の片づけ道具、そこにもまた各人のこだわりと違いが表れていて面白いです。
しかしやはり、うつわの楽しみ方を感じれるのはメインのストーリーでしょう。そこに書かれた文章を読んで写真を見ると、写真にあるうつわを見る自分の視線が持ち主の視線と重なり、持ち主の愛情を追体験するかのごとく、そのうつわがかけがえのないものに見えてきます。そういう感覚を持ちながら文章を読むと、そこに書いてあることを自分もしてみたくなります。
例えば、たかはしよしこさんのストーリーを読むと、瀬戸圀勝さんの漆塗の鉢を高くても手に入れて 料理に使ってみたくなり、うつわとの出逢いを求めて西荻窪の魯山へ行ってみたいと思ってしまいます。

続きは次回